小説 【呪文堂】

呪い(まじない)は「真実」にあらず。されど、「事実」になり得ん。

呪小説・其の弐【不動断末魔の大事】

 

序章

如月。

近頃、すっかり早寝早起きが習慣ついてしまっている。

朝は五時頃床を上げ、夜は九時頃に寝入っている。

なので。

夜の八時は、私にとっては深夜だ。

 

そんな時間に、私は深海美夜子(ふかみ みよこ)を伴い、その駅を降りた。

そして、北口へと美夜子を導いた。

そう、「呪文堂」への入り口、である。

 

深海美夜子は、高齢者施設の職員だ。

成年後見事業に関する研修会で、私は彼女と知り合った。

大学を出たばかりだが、芯が強く聡明で、美しい女性だ。

私は仕事柄、成年後見人になることがあり、彼女は施設職員ということで、違う役割ながらも共に高齢者を支えるという立場にあったため、よく情報を交換し、ときにはディスカッションもした。

聡明な彼女が発する真っ直ぐな考えと真っ直ぐな眼差しに、私は幾度となくたじろいだものである。

 

そんな彼女が、近頃、妙にふさぎ込んでいる。

眼の光は弱くなり、少しやつれたようにも見える。

心配になった私は、彼女に事情を訊いてみることにした。

彼女が勤務する施設に連絡し、彼女が早番で上がれる日を聞き出した。

そして、彼女が早番の日に施設を訪れ、近くの喫茶店に誘い出したのだ。

彼女はちょっと驚いたような顔で私を見たが、すぐに応諾してくれた。

私たちは、喫茶店に入った。

 

彼女は、運ばれてきたホットレモネードにも手を付けず、俯いていた。

私は、珈琲を静かに飲みながら、待った。

やがて彼女は、小さな声でぽつりと言った。

 

「・・こわい、と叫ぶんです・・」

 

こわい?何が?叫ぶ?誰が?

疑問がどんどんと湧き上がるが、私は我慢して、黙ったまま彼女を見つめた。

彼女、美夜子は、少しやつれて青白くなった顔を上げて、言った。

「私の担当するご利用者様が、夜中に起きて、こわい、こわいと叫ぶんです」

美夜子は、意を決したような顔をして、私をまっすぐ見つめて続けた。

「ご利用者様は、毎晩、午前2時半頃に起きては、こわい、こわいと叫ぶんです。いつもほぼ、同じ時間に。

私は夜勤になることが多いので、近頃はその時間になると、そのご利用者様のお部屋に行くようにしています。

そして、ご利用者様の手を握ったり、背中をさすったりするんですけど、そのご利用者様は、やはりこわいこわいと叫ぶんです。

もう随分と認知症が進んでいる方なのですが、私が、何が怖いのですか?と尋ねると、死がこわい、死ぬのこわいと、はっきりおっしゃるんです。

体も手足も、もう殆んど動かせない方なのですが、手足をぴんと突っ張って、目を大きく見開いて、こわいこわいと叫ぶのです。

ご家族にご相談したうえで医師の診断を受け、安定剤を処方してもらったのですが、効き目が全然なくって。やはり、同じ時間に、叫ぶんです。

目を見開いて、こわいと叫ぶんです・・」

 

私は彼女の言葉を頷きながら聴いた。

死ぬのが怖いと叫ぶ利用者。もの凄いような形相で、叫ぶのであろう。

美夜子は、すっかり参ってしまっているのだ。

もっとも、病院や高齢者施設においては、痛みや恐怖で泣き叫ぶ利用者は、決して少なくない。

職員は、良くも悪くもそれに慣れ、淡々と職務をこなすようになっていくのだ。

しかし、美夜子はまだ経験も浅く、なにより心が優しすぎるきらいがある。

死を恐れる利用者に共感し過ぎて同調し、自らも不安定になっているのだ。

死を恐れる利用者の心に美夜子の心も共鳴し、ぶるぶると震えだしているのだ。

もちろん、聡明な彼女は知っているはずだ。

共感はしても、同調してはならないということを。

同調してしまうと、自らもその利用者と「同じ穴」に落ち込んでしまう。

介護し支援する立場から、「同じ穴」の中で抱き合い泣き合う立場になってしまうのだ。

彼女は、それを理解している。

しかし、一度同調してしまった心を、どうすることもできないでいる。

 

死ぬのが、こわい。

 

彼女自身もこのフレーズに、囚われている。

たしかに、死ぬのは怖かろう。

説明も説得もできない、どうすることもできない、死の恐怖。

彼女自身も、死ぬのがこわい、死の恐怖はどうすることもできないと、おそらくそのように思っているのであろう。

なので、利用者の叫びに、彼女の心が共鳴してしまっているのだ。

死ぬのが、こわい。死ぬのが、こわい。死ぬのが、こわい。

 

彼女は、美夜子は、じっと私を見つめている。

美しかった瞳は、今はほとんど光がない。

まるで、漆黒の闇のような瞳だ。

まずい。

とても、まずい。

私は腕時計を見た。午後六時半過ぎ。

ここからなら、八時前には「最寄り駅」に着くだろう。

そう、「呪文堂の最寄り駅」、にだ。

いまの美夜子を、論理的な思考や言葉で救い出すことは、おそらく難しい。

ならば、頼れるのは、呪文堂主人。

私は、呪文堂主人の言葉を思い出していた。

 

・・どなたか、お困りの方に、この呪文堂をご紹介頂ければ。

もし、そうして頂けるのであれば、望外の喜び・・

 

よし、存外の喜びというならば、頼らせてもらおう。

そして美夜子を、救い出して貰おう。

まるで、人外の者のような雰囲気を漂わせる呪文堂主人。

恐ろしげではあるが、頼もしい存在でもある。

もし仮に、報酬として魂を求めるとでもいうのであれば、私の魂を差し出しても構わない。

彼女を、美夜子を、救い出してくれるのであれば。

 

私は美夜子の手を掴み、そして言った。

「一緒に来てください。あなたをお連れしたい場所がある。私を信じてほしい」

彼女はちょっと驚いたような顔で私を見たが、子供のようにこくりと頷いた。

私たちは、喫茶店を出た。

 

【呪文堂】

おお、あなたさまですね。今日はご婦人をお連れで。

ささ、どうぞ、お入り下さい。

ささ、こちらにどうぞ。お座りなさい。

ええもちろん、あなたさまも。ご婦人の横に、お座りなさい。

 

さて、今宵は、如何なさいましたかな?

ええ、あなたさまからでも。ご婦人ご本人からでも。

ゆっくりで構いませぬ。心落ち着かれてからで結構。

今宵のお客は、おそらくあなた方のみ。

ゆっくりで、構いませぬ。

 

 

・・なるほど。

こわい。

死ぬのが、こわい、と。

ご婦人が担当される利用者の方が、死ぬのがこわいと叫ぶのですな。

毎晩、死ぬのが怖いと、叫ぶのですね。

・・うむ。なるほど。

道理ですな。

たしかに死ぬのは、こわい。

ご婦人が同情されるとおりに、死ぬのはこわいものなのです。

そのこわさから、いくらかでも逃れることはできぬものかと。

・・できますとも。

 

そう、これが佳い。

ご婦人には、この「不動断末魔の大事」をお授け致しましょう。

「不動断末魔の大事」にございます。

 

お約束

まずは、お約束にございます。

お約束をお守りいただけないと、呪法は効かないどころか危険極まりないものです。

ゆめゆめ、お約束をお忘れにならないように。

ゆめゆめ、お約束をお破りなさらないように。

 

この世のものは、流れの中を漂うもの。

例外なく、すべてのものは、流れに漂う定めです。

ひとも虫も動物も、木や石や、星や太陽、太陰も、例外なく、その流れに漂う定めにあります。

我々にできることは些細な事。

些細な事に過ぎませぬ。

ただ、われわれの命も、実に些細なものに過ぎぬのです。

そうつまり、我々が行う些細な事は我々の些細な命に対し、ときに大きな影を落とすことが、あるのかもしれませぬ。

その影が、呪いなのですよ。

佳き影は、暑き日の大樹の陰の様。

爽やかな安らぎを、与えてくれる陰になるでしょう。

呪いは、佳き言葉を選び、佳き影をつくるべく努めるものです。

流れによき影が差せば、心地よい風が吹くこともあるでしょう。

効くも効かぬも流れ次第。

 

ゆめゆめ、悪しき影をつくらんと企むべからず。

 そう、ひとを呪わば穴二つ。

ゆめゆめ、忘れてはなりませぬ。

 

呪いとは、そのようなもの。

効くも効かぬも流れ次第。

 

それでもやると言うのなら、お止めすることはいたしませぬ・・

 

・・やりますか。呪いを。

・・わかりました。

では、ご伝授させて頂きましょう。

 

不動断末魔の大事

この呪法は、死の瞬間の断末魔を減退させる法です。

死の間際、この身が滅するその時に、人体にある三百六十の骨肉節々が、個々バラバラに断絶されるような苦しみを、我々は享受せねばならぬというのです。

それを断絶魔というのです。

恐ろしいまでの苦痛、激痛であるとか。

多くの剣にて体中を切り裂かれるような痛みが、我々を襲うというのです。

この断末魔を減退させる法、それが不動断末魔の大事。

 

・・如何しますか?

お聞きになるか?

そうですか。では、続けましょう。心して。

 

実践

この法は、本来、死に臨む本人が行い修めるもの。

しかし、ご婦人、あなた様のお話をお聴きする限り、ご本人がこの法を行い修めることは、残念ながら難しいでしょう。

そこで、あなた様がご本人に代わり法を行い修めるやり方、そう我が工夫し術法を、お伝え致す。

 

 

まず、法を行うに際し、あなた様は必ずご本人の傍に侍らう必要があります。

あなた様の発する言の葉が、ご本人の耳に届く距離である必要があるからです。

ご本人の意識がなくとも混濁しても、耳に届けば言の葉は、ご本人に違わず作用するものです。

まず、ご本人の傍らに安座します。胡坐ですな。もっとも安座が出来なければ正座でも結構。特に結跏趺坐などする必要はありませぬ。もちろん、しても結構。

次に、智拳印を結ぶ。

左手の人差し指だけを伸ばし、あとの指は軽く握り、伸ばした左の人差し指を右手で握るようにする印です。

そう、左手で「いち」を示すように人差し指だけを伸ばし、その人差し指を右手の五本指で握る、それが智拳印。そう、それで結構。

 

そして、智拳印を結んだまま、つぎの慈救咒(じくのしゅ)を唱えます。

なうまくさんまんだ ばざらだん

せんだまかろしゃだ そはたや うんたらた

(ご本人の氏名) まりし かん まん そわか

 

智拳印を結び慈救咒を唱え続ければ、やがては不動明王と一体となり、さらに四大明王に囲まれ護持されるため、諸魔は絶対に、ご本人に触れることができなくなります。

そう、この法を修めれば、断末魔をも退けることができましょう。

そしてご本人は安らかに、往生されることになりましょう。

 智拳印を結び慈救咒を三回唱えたら、印を結んだままゆっくり九つ数える。

そして、また慈救咒を三回唱え、九つ数えます。

これを九回繰り返す。

すなわち、慈救咒を三回唱え、その後に九つ数えるを、九回繰り返す。

慈救咒は二十七回唱えることとなり、数は八十一を数えることになる。

しめて、一〇八。

これで一の呪法が成り上がる。

少なくとも、一日一回、一の呪法を成り上げなさい。

できれば、朝昼晩と、三の呪法まで成り上げることができたら、上々。

そして唱え終わったら、印を解き、合掌。

 

さて、この法を修めるためには、ただ漫然と印を結び、ただ漫然と慈救咒(じくのしゅ)を唱えていてはなりませぬ。

智拳印を結び慈救咒を唱える際、心の中でご本人が不動明王と重なり、ご本人が四大明王に囲まれる姿を思い描くことが、肝要。

そのためには、この法を行う前と、この法を行った後に、必ずご本人のお顔を見ながら、ご本人のお名前を唱えながら、優しくご本人の手や腕をさすりながら、ご本人の苦しみ無い往生を祈ることが、肝要。

ご本人に意識があってもないとしても、ご本人に、あなた様の手の温もりを感じてもらえるよう、あなた様の優しい声を感じてもらえるよう、包み込むようにしながら手を当ててさすり、包み込むようにしながらお声掛けすることが肝要。

その行いをすることで、智拳印を結び慈救咒を唱える際、ご本人が不動明王と重なり、ご本人が四大明王に囲まれる姿を鮮明に思い描けるようになるでしょう。

 

期間

この不動断末魔の大事は、往生する三日前から行えば、断末魔を退け、全く苦しみのない往生を迎えることができる、といわれます。

三日よりも長きにわたって、不動断末魔の大事を執り行い続けることができたなら、断末魔を近づけないことはもちろんのこと、とても心地の良い往生を遂げることができるといわれます。

まるで、春風吹く野原にて、暖かな陽に包まれし午睡のときのように。

まるで、夏の日の夕方、涼やかな風が運ぶひぐらしの声を愛でるときのように。

まるで、秋の早朝、高き空に流れる雲が金色に光るのを眺めるときのように。

まるで、冬の夜、分厚い布団に守られ眠りの世界に吸い込まれていくときのように。

とても心地よいまま、往生を遂げることになるといわれます。

不動断末魔の大事の法を行う期間が長ければ長いほど、さらなる心地良き往生を、遂げることができるのだというのです。

 

もしも、往生する三日前より、この法を行うことができなかったとしても、なに、悲嘆することはありませぬ。

一の呪法を成り上げることができたなら、断末魔の苦しみは、四分の三に減じるといわれます。

二の呪法を成り上げることができたなら、断末魔の苦しみは、四分の二に減じるといわれます。

三の呪法を成り上げることができたなら、断末魔の苦しみは、四分の一に減じるといわれます。

四の呪法を成り上げることができたなら、断末魔の苦しみは、とても少ないものになるといわれます。

不動断末魔の大事は、できれば往生される三日以上前より行うことが理想とされますが、緊急の際には、即刻、続けて四の呪法まで成り上げなさいませ。

四の呪法まで行えば、ご本人の断末魔の苦しみを、大方取り除くことができましょう。

その後、可能な限り、ご本人の命の灯が消えるまで、五の呪法、六の呪法と成り上げなさいませ。

もっとも、一日に行うべきは、九の呪法まで。

それ以上は、やっても効用なしといわれますので、ご留意を。

九の呪法までを成り上げたら、ご本人の傍らで、ご本人のお顔を見ながら、ご本人のお名前を呼びかけながら、優しくご本人の手や腕をさすりながら、ご本人の苦しみ無い往生を、心より願うのがよろしかろう。

その願いは、むろんのこと、届くべきところに届くものなのです。

  

先ほどご説明した慈救咒(じくのしゅ)を記したものを、ここにご用意致しました。

さあ、お持ちなさい。

なにか、他に聴きたいことなどございますかな?

ご心配事は?

・・よろしいか。

 

ではどうぞ、ご婦人、お帰りの道中、お気を付けて。

あなたさまも。

 

 

・・いえ、ご婦人。お代は不要なのですよ。

こちらの殿方から、聞いてはおりませんか。

呪文堂主人に、銭金は不要。

ご婦人、あなた様とその利用者様に、佳き風が吹けばそれで充分。

呪文堂主人は、それで充分なのでございますよ。

しかも、今宵はこちらの殿方が、ご婦人、あなた様をお連れ下さった。

呪文堂主人には、望外の喜び。

もう、充分にございます。

 

 

・・さてさて。

いやはや、お二人して呪文堂主人を困らせますなあ。

さて。

そもそもご婦人に憑きしものを落としたのは、我にあらず。

呪文堂主人の今宵の仕事は、只の半分に過ぎぬものを。さて。

しかし、我に施すことで納得がいく、とおっしゃられるのであれば、さて。

よろしい。では、ご婦人。

どなたかお困りの方を、ご紹介願いましょうか。

どなたかお困りの方に、この呪文堂をご紹介頂ければ。

もし、そうして頂けるのであれば、望外の喜び。

 

なになに、急ぎません。

いつでも、宜しいのですよ。

もしもなにかの折に機会があれば、そのとき一言ご紹介頂ければ、充分。

ごゆるりと、構えて頂ければ、結構なのですよ。

 

では、ごきげんよう。

ご婦人、そして、あなたさまも。

 

ー あびらうんけん  そわか ー

 

終章

訪れるのは二度目であったが、やはり奇妙な主人であった。

前回同様、やはり奇妙としか言い様のない主人であった。

 

となりを歩く美夜子の顔をこっそりと覗いてみると、この坂道を上っていたときとは別人のように見える。

薄桃色をした頬と、あでやかな唇、潤いある瞳。

行きの道では生気の抜けた人形のような顔をしていたが、いま、戻りの道では、つややかで美しい、いつもの美夜子の顔に戻っている。

やはり、呪文堂主人は只者ではない。

美夜子を、見事、救い出してくれたようだ。

 

美夜子は私の視線に気付いたのか、こちらを振り向いた。

私は慌てて下を向いた。

私のすぐ横から、美夜子のころころとした美しい声が聞こえた。

「先生、ありがとうございます。わたし、なんだか救われた気分です。本当に不思議な感じです。最初はどこに連れていかれるのだろうと思いましたけれど。呪文堂さんですか?すごいひとでしたね」

まるで女学生のように、美夜子は軽やかに話した。

声が華やいでいる。以前の、美夜子の声だ。

美夜子は続けた。

「わたし、やってみたいと思います。ええと、智拳印と慈救咒、ですよね。呪文堂さんに頂いた用紙があればできると思います。先生、本当に、助かりました。ありがとうございました!」

美夜子はぺこりと頭を下げた。

私は、うんだのああだの言いながら、頷いた。

気の利いた言葉ひとつ出てこない自分の口が、腹立たしい。

呪文堂主人なら、こういうときに、さらさらと心地よい言葉を発するのだろう。

しかしまあ、私は私であり、主人は主人だ。役割が違う。諦めよう。

顔を上げた美夜子がこちらをじっと見ている。

その頬は、いつもより朱が濃く差しているように見える。生気が戻り、血流が普段より循環しているのだろうか。なにはともあれ、よかった。

私はまぶしいものを見る心地で、しかし、なにか気の利いたことを言わねばならぬ、と焦った。

「ええ、そうですね。取り敢えずは、よかった。

・・さて、ええと、おなかは大丈夫ですか?つまり、空いてはいませんか?私が無理に連れ出してしまったので・・」

私がごにょごにょと言うと、美夜子は潤んだような瞳を少し見開いた。

まずいことを言ったか、と後悔しそうになったが、その前に、美夜子が救済してくれた。

「先生、ありがとうございます!実は、なんだか救われたような気分になったら、急におなかが空いてしまって。先生、この辺りのお店、ご存じなんですか?是非、連れて行ってくださいな」

まったく優しい女性だ。私の無様な言葉を救い上げてくれたのだ。

 

さて、駅の南口には、美夜子に似合うようなお店はあったかしらん?

私は大急ぎで、自分の脳裏にある引き出しをあちこちと開けて、拙い情報たちを引っ張り出した。

美夜子はとなりでにこにことしている。

まずい、もう、駅が見える。

帰りの下り道は、前回にもまして短い。

さてさて、困った。

ふと腕時計を見ると、夜九時過ぎであった。

眠気は全く、すっ飛んでいた。

  

 

 

 

 

※すべては虚構にて、あしからず。

【参考文献】

・『日本呪術全書』豊島泰国/原書房